私は、アスペルガー症候群の娘(現9歳)を持つ保育士ママです。
娘は知能が高めで基本的な日常生活に適応出来てしまっていたために対応が遅れ、いじめや周囲の不理解などの問題に苦労することになりました。
現在、10人に1人の割合の子供が自閉症スペクトラムの傾向を持っていると言われています。
病気ではなく脳の特性なので治療して治るものではありませんが、早期対処により症状を大きく改善することが可能です。
もしお子さんに「よくしゃべるし、まあまあ目も合う、友だちとも一緒に遊んでいるようにみえるけど・・なんだかみんなとズレている気がする」というような違和感を感じたら、まずはセルフチェックをおすすめします。
アスペルガー症候群とは?
アスペルガー症候群は発達障害のタイプの1つです。
1944年に小児科医ハンス・アスペルガー氏が発表した論文を、後に精神科医ローナ・ウイング氏が再評価し「アスペルガー症候群」という用語を提唱したことで広く知られるようになりました。
生まれつき脳機能に障害があるため得意・不得意の差が大きく出現します。
知能の遅れは無いか平均より高く、言語能力や情報処理能力に優れていることが多いですが
- 目に見えない気持ちや場の空気などを察する
- 他人と円滑にコミュニケーションを取る
- その場で求められるマナーや常識を察し、ふさわしい態度・行動を取る
という3つの能力が育ちにくいため、人間関係でのトラブルが問題となります。
現在では、「自閉症(カナー症候群)」「高機能自閉症」と共に「自閉症スペクトラム(ASD)」という広い枠の中に位置づけられており、アスペルガーという名称を使うことはほとんど無くなっています。
しかし本記事では読みやすさを重視し、表題に準じてアスペルガー症候群の名称を用います。
アスペルガー症候群(ASD)の3つの特徴と症状
アスペルガー症候群(ASD)は、大きく以下の3タイプに分類されます。
しかし症状には個人差が非常に大きく、かつ年齢と共に変化することもあるので、どれと限定して考えることは難しいとされています。
娘は基本的に受動型ですが、場の状況や精神状態によって全てのタイプを行ったり来たりしているように思います。
①孤立型
人への関心が極端に少なく、関わりを持つことに興味が無い。
話しかけても聞こえていないように見える。
自分に有益な情報や物事を提供してくれる相手にだけ対応する。
②受動型
他の人が関わってくれば応じるが、全てが受け身なので、主従関係を作られやすくいじめに発展しがち。
自発行動が少ないので目立たず、困っていても気づかれにくいので対応が遅れてしまうことが多い。
③積極奇異型
人への関心が高く積極的に関わろうとするが、距離が近すぎたり、ベタベタまとわりついたり、自分の興味のある話だけを延々と続けたりして、相手が困っていたり嫌がっていることに気がつかない。
怒られても何が悪いのかがわからず繰り返してしまうのでトラブルが多い。
子供のアスペルガー症候群(ASD)セルフチェック
「うちの子、他の子供とちょっと違うかも?」と思ったら深く悩む前にセルフチェックをしてみましょう。
ここでは、一般的にアスペルガー症候群全体に共通すると言われているポイントを挙げましたので参考にしてくださいね。
こだわり・感覚
- 初めての場面、人、状況、予定の変更に対応しづらく、パニックを起こしやすい
- 本当のこと、正論、事実にこだわりすぎる
- 興味の幅が狭く深い。ただし知識の多さに比べ抽象的な問題については極端に関心が薄い(戦国武将の名前や年号はスラスラ出てくるが、戦争撲滅や命の尊さについて語り合うことは難しい)
- マイルールやこだわりが強すぎる、変化を極端に嫌う
- 感覚が過敏すぎる、又は鈍感すぎて体調を崩したり睡眠の質が悪い等、生活に支障が出る(服の素材、光、音、味覚、におい、気温、痛みなど)
- 手先が不器用、運動が苦手、姿勢が保てない
人との関わり
- 幼少期「ママ、あれ見て」などの指差しをしなかった
- 相手の知らない話や興味の無い話を平気で延々続け、表情や仕草でアピールしても全くやめず悪気も無い
- 表情が乏しい
- 目が合いにくい、または相手を見つめすぎる
- 被害妄想が強い(愛想笑いを「バカにされた」と受け取るなど)
- ジェスチャーやアイコンタクト、相づち、うなずきなどが少ない
- 同年齢の子どもよりも大人(先生)や年上の子と遊びたがる
- クラスメイトから「博士」「不思議ちゃん」などと呼ばれている
言葉
- 幼少期、大人が「あのおもちゃを取って」などの指差しをしたとき、指の先のものではなく指そのものを見ていた
- 言葉通り、文字通りに捉えすぎる(「また今度遊ぼうね」と言われても社交辞令とわからず具体的な日時や場所などを決めたがる)
- 言葉遣いが丁寧すぎる、堅苦しい、難解な表現や専門用語ばかり使う、抑揚が無い、ボリュームの調整が出来ない、早口など、特徴的な話し方をする
- 会話に主語がなく単語だけを言う、話題が次々に飛ぶ、語尾が不明瞭、など話が聴き取りづらい
- 「どんな先生だった?」「今日どうだった?」など抽象的な質問には答えづらく、固まってしまったり、すべて「ふつう」などと返事をするか、事細かに説明しだして止まらない
以上の項目に半分以上当てはまった場合は、まずは専門家に相談することをお勧めします。
発達障害の正確な診断をつけることは非常に難しく、専門家にしか出来ません。
素人判断で間違った対処をしてしまうと症状が悪化したり、鬱病などの二次障害を起こすこともあるので注意が必要です。
発達障害傾向の主な相談先
- 小児専門医
- 精神科医
- 小児発達心理専門のカウンセラー
- 自治体の発達支援センター
- 家庭支援センター
- 育児相談
- 保健師
- 園や学校の担任
- スクールカウンセラー
アスペルガー症候群とADHDとの違い
アスペルガーとADHDは混同されやすく、両方併せ持つタイプもたくさんいると言われていますが、同じように見える行動でもその原因が異なります。
問題行動に対し、ADHD脳の場合は「わかっているのに出来ない」のですが、アスペルガー脳では「何が問題なのかがわからない、又は関心がない」ことが大きな違いです。
例えば、ADHDの子は相手の気持ちや立場を読み取る能力はあるので、友達関係を構築することには問題が無い場合が多いのですが、自分勝手が過ぎる、約束を守れない、手が出てしまう、など自分を制御出来ずにトラブルになることがあります。
しかし相手の傷ついた気持ちを説明すれば理解し納得することが出来ます。
一方アスペルガーの場合、そもそも自分にも他人にも「気持ち」というものがあること自体を知らなかったり、説明してもなかなか理解出来ません。
ですので、トラブルが起きても謝ったり反省する態度をとることが出来ず「わがまま」「冷たい」「非常識」「わざと嫌がらせをしている」などと誤解されて嫌われてしまうことがありますが、本人は何が悪いのかわからないので「一方的に怒られた」ととらえ、自信を無くし被害的になってしまうことがあります。
子供がスペルガーと診断されるまでの体験談
ここからは、現在9歳の我が子がどのような過程で発達障害(アスペルガー症候群)と診断されたのか実体験を紹介します。
相談に行くまでの経緯
<0~1歳>
睡眠の浅い子で、私以外には抱かせず、感覚も過敏で手を焼きました。
第一子だったこともあり、こんなものかなと黙視していましたが、1歳半頃から外遊びが増えて幼児サークルなどにも参加するようになり、同年齢の子たちとの違いが気になるようになりました。
<2歳>
お誕生日時点で文章で会話し、毎日パズルや読書に1〜2時間熱中、思うように出来ないと壮絶な癇癪で半日が潰れる、自分で選んだ服しか着ない、など言語・知的能力の高さと集中力、完璧主義、こだわりが見られました。
家では非常におしゃべりで明るく活発でしたが、外に出た途端、その場に1人でもよく知らない人がいると硬直し無言・無表情。
公園は出口付近しか遊べず、幼児サークルでも終始ドアの陰から観察し、その後は決まって、私と2人きりになった瞬間に今見てきたことを詳細にとめどなく話すというパターンでした。
<3~4歳>
保育園に通い出し、母子分離のパニックはそれはそれは酷いものでしたが、担任に恵まれたおかげで1年後には馴染みホッとしたのもつかの間、クラスの女子から意地悪をされるように。
全て受け身になってしまう娘は、自己主張の強いお友達のイエスマン状態。
毎日のように、精魂込めて作った作品やお気に入りのおもちゃを奪われたり、言うことを聞かないからと血が出るほどつねられたり、頭から砂をかけられたり。
先生の目を盗んで次々と嫌なことをされ、かなりストレスがたまっているはずなのにヘルプサインが出せないので先生も手が出せません。
相談に行くことを決めた決定打は、家で真っ黒な紙に「(意地悪な子の名前)嫌い」とたくさん書いているのを発見したことと、癇癪が壮絶になり悪夢にもうなされるようになったことでした。
療育とペアレントトレーニング
4歳で発達検査を受けて以降、月2回の療育とペアレントトレーニングを現在も続けています。
随分試行錯誤しましたが、「気持ち」「場の空気」を読み取る事はやはり難しく、年齢的にどんどん複雑になる女子グループの人間関係には太刀打ち出来ない状況ですので、「嫌なことをされたり言われたらその場を離れる」「常に本を持参し遊ぶ相手がいない時は1人で読書する」「疲れた時はすぐに休む」など危機回避のパターンをインプットする方法を取っています。
また療育で「家ではなるべくストレス発散できるような環境作りをして下さい」と言われているので、必要な勉強を終わらせたら寝る時間までは趣味(クイズ番組観賞、マインクラフト、ナノブロックなど)に制限なく没頭して良いとしています。
つい行儀や態度の悪さが気になって注意したくなりますが、グッとこらえてうるさく言わないようにしてみたところ、本人から学校の話をしてくれたり、私の意見やアドバイスを受け入れてくれるようになりました。
定型発達タイプの育児と比べると甘やかしや過保護と思われる場合も多く、私も慣れるまでは抵抗がありましたが、私達と全く異なる脳を持つ彼らと毎日付き合って行くには、こちらも常識や貞操観念を捨てる必要があることを日々実感しています。
子供が発達障害かも?と思ったら、今日から出来る対処法
- とりあえず何でも可視化してみる
頭の洗い方、トイレの使い方、食べる時の姿勢、片付けの方法など、治して欲しいことは何でも図や絵にして説明し、現場に貼って提示してみましょう。 - とにかく書く、書く、書く
今日の予定、今月の予定、ToDoリスト、家を出る時間、持ち物など忘れてはいけないことは全て紙に書いて、必ず見るところに貼っておきます。
また本人の話も紙に書きながら聴くと、満足感を得ると共にお互いの頭の整理にもなります。 - 嫌がることは極力やめてみる
「雨が痛い」「特定の音に吐き気がする」など私たちが思う以上に辛い思いに耐えていることがあります。
まずは家庭内だけでも、嫌がることは極力排除してみましょう。
アスペルガー症候群のセルフチェックは早い方が良い!
アスペルガー脳を持つ子は、実直・純粋・独創的で、必ず何か人より秀でた才能を持っています。
その強い集中力と完璧主義を活かして社会的に成功している方もたくさんおり、エジソン、アインシュタイン、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブスなど、歴史的な偉人や研究者にも多く名を連ねています。
また最近のTVのヒットドラマでも、「ドクターX」の大門未知子(米倉涼子)、「逃げるは恥だが役に立つ」の津崎平匡(星野源)、「義母と娘のブルース」の宮本亜希子(綾瀬はるか)、「僕らは奇跡でできている」の相川一輝(高橋一生)など、アスペルガーの特徴を持つキャラクターを中心に物語が構成されているものが目立ちます。
発達障害に関する相談件数は年々増加の一途を辿っており、このようなドラマが制作され世間に広く浸透し共感される背景には、同じような生きづらさを抱えている方が多いということなのではないでしょうか。
早期対処により、本人の負担の軽減や、得意分野の発達が促されるのははもちろん、家族のストレスもかなり緩和されます。
気になることは是非早めに専門家に相談し、適切な対処をして、彼らの素晴らしい能力を伸ばしてあげましょう。
<参考文献>
- 高機能自閉症・アスペルガー症候群「その子らしさ」を生かす子育て 改訂版
吉田友子著 中央法規出版 - アスペルガー症候群・高機能自閉症の子どもを育てる本 家庭編
佐々木正美監修 講談社 - 自閉症スペクトラムがよくわかる本
本田秀夫監修 講談社 - のび太・ジャイアン症候群4 ADHDとアスペルガー症候群
司馬理恵子 主婦の友社 - 新版 のび太・ジャイアン症候群4 ADHDとアスペルガー症候群
司馬理恵子 主婦の友社